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福島地方裁判所相馬支部 昭和46年(ワ)24号 判決 1973年1月30日

原告

末永康子

ほか二名

被告

佐藤明

ほか三名

主文

一  原告らの第一次請求を棄却する。

二  被告らは、各自、原告末永康子に対し金四一八万九、〇五六円および内金三九三万九、〇五六円に対する、原告末永亀之助、同末永フヂエに対し各金一〇一万九、五二八円および内金九六万九、五二八円に対する、いずれも昭和四五年八月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの予備的請求中、その余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  この判決第二項は、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  第一次請求の趣旨

(一)  被告らは、各自、原告末永康子に対し金四五三万七、五〇〇円、原告末永亀之助、同フヂエに対し各金一七六万八、七五〇円および右各金員に対する昭和四五年八月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  予備的請求の趣旨

(一)  被告らは、各自、原告末永康子に対し金四二四万八、二三九円、原告末永亀之助、同フヂエに対し各金一〇四万五、六七〇円および右各金員に対する昭和四五年八月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

第三請求の原因

一  (本件事故の発生)

(一)  発生日時 昭和四五年八月一六日午後一〇時五〇分頃

(二)  発生地 福島県双葉郡大熊町夫沢字西後内沢九六番地先道路上

(三)  加害車 トヨペツトコロナ普通乗用車(福島五は二二六八)

(四)  加害車の運転者 被告佐藤

(五)  死亡者 訴外末永秀夫 同日午後一一時三五分死亡、当時二七年

(六)  事故の態様 被告佐藤が加害車を無免許運転中、先行の大型車両を追越すためセンターラインを越え、末永秀夫運転の軽乗用自動車(以下被害車という)に激突した。

二  (責任原因)

(一)  被告佐藤は、加害車を無免許で運転し、時速七〇キロメートルで走行中、約八〇メートル前方に対向車(被害車)が進行してきているのを認めながら、運転技倆未熟のため先行車を追越すことが極めて危険であることに気づかず、時速八〇キロメートルに加速して道路中央線を越えて追越しにかかつた重大な過失により、加害車を対向車(被害車)に衝突させ、前記秀夫を死亡させたものである。

(二)  被告福島トヨペツト株式会社(以下被告会社という)は、昭和四五年三月二日加害車を訴外松浦信子から下取り車として引取り保有していたが、これを被告井戸川が他に販売するために同被告に引渡し、同被告は引渡を受けて加害車を使用中、被告金沢に貸与し、同被告は加害車に同乗して無免許の被告佐藤に運転させていたところ、同被告が前記のように本件事故を惹起したものである。

(三)  被告井戸川は、被告会社に対しいわゆるサブデイーラーの関係にある者であり、自動車の購入希望者があつた場合、被告会社から自動車を預り、これを客に見せ、あるいは試乗させたり、試運転させたりして購入意欲を刺激して購入を決意させると、被告井戸川の整備費と利益を被告会社から示された仕切値に加えて販売値段を決め、その上で被告会社に注文書を作成してはじめて被告会社から購入することとしていたものであつて、被告会社から被告井戸川に対する加害車の引渡時において両者間に売買が成立しているものではなく、右引渡は販売のための引渡であり、これによつて被告会社が加害車に対する運行支配を失うものではない。また、被告井戸川が客に対し、試乗させたり試運転させたりして販売活動を行うことは同時に被告会社の利益にもなることであるから、試乗、試運転のために被告井戸川が客に自動車を一時貸与することも被告会社が当然容認しているところである。したがつて、加害車が被告井戸川から被告金沢に貸与され、被告金沢から被告佐藤に貸与されたことにより、被告会社が加害車に対する運行支配および運行利益を失うものではない。

(四)  よつて、被告佐藤は民法七〇九条による不法行為責任を、被告金沢は同条による不法行為責任と自賠法三条による運行供用者責任を、被告井戸川および被告会社は自賠法三条による運行供用者責任をそれぞれ負うものである。

三  (損害)

(一)  秀夫の逸失利益の死亡時における現価は合計二八八六万九、七三二円である。

逸失利益算定の根拠は次のとおりである。

(1) 秀夫は、死亡時、相馬丸三製紙株式会社に勤務し、給与月額四万一、二三六円(基本給三万五、四二〇円、手当五、八一六円)を得ており、年額給与は四九万四、八三二円であり、賞与は、基本給三万五、四二〇円の五ケ月分で年額一七万七、一〇〇円であるから、同人の年間収入合計は六七万一、九三二円である。生活費としてその二分の一を控除すれば、同人の年間逸失利益は、三三万五、九六六円である。

(2) 同会社の従業員給与の昇給率は、基本給に対し対前年度比較で、昭和四三年度一三パーセント、同四四年度一八パーセント、同四五年度二三パーセントであるから、将来の昇給率は基本給に対し毎年最低一〇パーセントは確実と認められる。また、同社の定年は五五才であるから、同人は将来定年まで二八年間在職可能である。その間、毎年基本給に対し最低一〇パーセントの昇給があると考えられるから、今後二八年間の逸失利益の死亡時の現価の合計は別表記載の計算により二二一〇万九、三六四円となる。

(3) 更に同会社の退職金支給基準は、二八年間勤続後定年五五才で退職する場合、基本給の三五ケ月分であるから、秀夫の定年退職金は、退職時の予想基本給四六万四、三一一円の三五ケ月分であり、その死亡時の現価は六七六万〇、三六八円となる。

(二)  精神的損害(慰藉料)

秀夫は一〇〇万円が、原告康子は三〇〇万円が、原告亀之助、同フヂエは各五〇万円が相当である。

右慰藉料算定につき特記すべき事実は次のとおりである。

(1) 秀夫

本件事故の態様は、被害者に全く過失なく、被告佐藤の無免許、無謀追越という重大な過失に基因するものであり、被害者自身の事故遭遇に対する遺恨、怒りは甚大であり、かつ被害者は受傷後死亡までの約一時間想像を絶する激痛と死の苦悶を受けたものであるから、慰藉料は一〇〇万円が相当である。

(2) 原告康子

原告康子は、被害者と結婚してから二年近くになり、その全生活と将来の全生涯を被害者に託し幸福な家庭を有してきたもので、被害者の死亡により突如として家庭を破壊され、人生最大の不幸に見舞われ生きる希望を失うほどの大打撃をうけた。この精神上の打撃と傷痕、未亡人となつた身分上、生活上の変化、障害は、同原告の今後五〇年近い全生涯にわたつて重大な影響を及ぼすものであるから、これを慰藉するには少くとも五〇〇万円以上が妥当と認められるが、同原告と秀夫との間にはまだ子の出生を見るに至らなかつたことを斟酌すると、慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(3) 原告亀之助、同フヂエ

同原告ら老夫婦は、最愛の子である秀夫を本件事故によつて一瞬にして失い悲歎極まりなく、また今後、老骨に鞭うち、生活の根拠と希望を失つた原告康子に対し、物心両面より援助してゆかねばならぬことを考慮すると、各五〇万円の慰藉料が相当である。

四  (権利の承継)

原告康子は、秀夫の妻であり、原告亀之助、同フヂエは秀夫の両親であるので、相続により、前記秀夫の逸失利益および慰藉料の損害賠償請求権を原告康子は二分の一、原告亀之助、同フヂエは各四分の一の割合で取得した。

五  (損益相殺)

原告らは、被告らから自賠責保険金五〇〇万円を含め合計五五八万円の支払を受けたので、前記秀夫の逸失利益の損害二八八六万九、七三二円からこれを控除する。

六  (弁護士費用)

原告らは、本訴請求を原告ら自身において遂行することが困難であるので、原告ら訴訟代理人にこれを委任し後記報酬を支払うことを約束し、その合計額五七万五、〇〇〇円のうち、原告康子において二八万七、五〇〇円を、原告亀之助、同フヂエにおいて各一四万三、七五〇円を負担した。

(1)  着手金 五万円

(2)  旅費日当 一回五、〇〇〇円

(3)  謝金 判決認容額または和解金額の七パーセント、ただし、本訴第一次請求においては、請求額合計七五〇万円の七パーセントにあたる五二万五、〇〇〇円

七  (第一次請求額)

よつて、原告らは被告らに対し次の金員の支払を求める。

(一)  原告康子

(1) 前記三の(一)の秀夫の逸失利益額二八八六万九、七三二円から前記五の五五八万円を控除した残額の二分の一の内二五〇万円

(2) 前記三の(二)の秀夫の慰藉料一〇〇万円の二分の一の内二五万円

(3) 前記三の(二)の原告康子の慰藉料三〇〇万円の内一五〇万円

(4) 前記六の弁護士費用二八万七、五〇〇円

合計四五三万七、五〇〇円

(5) 右合計金に対する昭和四五年八月一七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二)  原告亀之助、同フヂエ

(1) 前記三の(一)の秀夫の逸失利益額二八八六万九、七三二円から前記五の五五八万円を控除した残額の四分の一の内各一二五万円

(2) 前記三の(二)の秀夫の慰藉料一〇〇万円の四分の一の内各一二万五、〇〇〇円

(3) 前記三の(二)の原告亀之助、同フヂエの慰藉料各五〇万円の内各二五万円

(4) 前記六の弁護士費用各一四万三、七五〇円 合計各一七六万八、七五〇円

(5) 右各合計金に対する前記(一)の(5)の遅延損害金

八  (予備的請求における秀夫の逸失利益)

前記三の(一)の(2)の主張が認められないとすれば、秀夫の逸失利益の死亡時における現価は次の算定方法により合計七四五万八、一一二円である。

(一)  秀夫の年間収入合計額は前記三の(一)の(1)のとおり六七万一、九三二円であり、生活費としてその四〇パーセントを控除すると(将来の昇給が認められないとすれば生活費は収入額の四〇パーセントを控除するのが相当である)、同人の年間逸失利益は四〇万三、一五九円である。同人は定年まで二八年間在職可能であるので二八年間の逸失利益の累積総額の死亡時における現価は六九四万二、三九七円である。(法定利率による単利年金現価総額表による二八年の現価率一七・二二を年間逸失利益額に乗ずる)

(二)  同人の二八年間勤続後五五才定年退職時の退職金は、前記三の(一)の(3)のとおり基本給の三五ケ月分であるから、同人の基本給三万五、四二〇円の三五倍すなわち一二三万九、七〇〇円であり、その死亡時における現価は五一万五、七一五円である。(法定利率による期限付債権名義額に対する各期の現価額表による二八年の現価率〇・四一六を乗じた額)

九  (予備的請求額)

前記三の(一)の(2)の主張が認められないならば、原告らは次の金員の支払を求める。

(一)  原告康子

(1) 秀夫の逸失利益の相続分 九三万九、〇五六円(秀夫の前記八の逸失利益額七四五万八、一一二円から前記五の五五八万円を控除した残額の二分の一)

(2) 同原告の慰藉料 三〇〇万円(前記三の(二)の同原告の慰藉料全額)

(3) 弁護士費用 三〇万九、一八三円(後記説明のとおり) 合計四二四万八、二三九円

(4) 右合計金に対する昭和四五年八月一七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(二)  原告亀之助、同フヂエ

(1) 秀夫の逸失利益の相続分 各四六万九、五二八円(秀夫の前記八の逸失利益額七四五万八、一一二円から前記五の五五八万円を控除した残額の四分の一)

(2) 同原告ら固有の慰藉料 各五〇万円(前記三の(二)の同原告らの各慰藉料全額)

(3) 弁護士費用 各七万六、一四二円(後記説明のとおり) 合計各一〇四万五、六七〇円

(4) 右各合計額に対する前記(一)の(4)の遅延損害金

(弁護士費用についての説明、着手金五万円と右予備的請求額の七パーセントにあたる四一万一、四六七円との合計四六万一、四六七円を原告らの請求額に応じ原告康子六七パーセント、原告亀之助、同フヂエ各一六・五パーセントの割合で負担することとした)

第四請求の原因に対する答弁および抗弁

一  被告佐藤、同金沢

(一)  請求原因一項中、被告佐藤が大型車両を追越すため被害車に激突したことは否認し、その余の事実は認める。

(二)  同二項の(一)について、被告佐藤に不法行為責任があることは認める。同二項の(二)、(四)について、被告金沢が本件事故当時加害車を被告井戸川から借用中であつたことは認め、その余の事実は争う。被告金沢は加害車の所有者ではないから運行供用者としての責任はなく、また、同被告は被告佐藤が無免許であることを知らないで同被告に加害車を運転させたのであるから、不法行為責任もない。

(三)  同三項ないし九項中、被告らが五五八万円を支払つたことは認め、その余の事実は否認。

(四)  本件事故は、被告佐藤が加害車を運転し、先行車の合図に従い先行車を追越した際、センターラインから約一尺、対向車線に入り、被害車の左前部に接触して被害車が横転し、同自動車の運転者である秀夫が死亡したものである。本件事故現場は六号国道であること、事故当時車両の通行は激しくなかつたこと、被害車は軽四輪自動車であることなどから考えると、秀夫にも前方不注視の過失があつたものとみるべきであるから、過失相殺の主張をする。

(五)  被告佐藤は、本件慰藉料の一部として金五八万円を支払つたから、賠償額から右金員を控除すべきである。

二  被告井戸川

(一)  請求原因一項中、秀夫が死亡したことは認め、その余の事実は不知。

(二)  同二項中、被告井戸川が被告会社から加害車の引渡を受け、保管中、これを被告金沢に貸与したことを認め、その余の事実は否認。

被告井戸川は、被告金沢から自動車の修理の依頼を受けていたところ、昭和四五年八月一三日同被告から同被告の自宅から一二・三キロメートル先の同被告方墓地まで家族とともに墓参りするために代りの車を貸してほしい旨申込まれ、墓参がすんだ上はすぐ返すという約束で加害車を同被告に貸与したものであつて、遅くとも八月一四日朝までには返済されるはずのものであつたから、本件事故当時はすでに貸与期間をすぎており、また、同被告が無免許の被告佐藤に加害車のハンドル貸しをしたことは被告井戸川の全く関知しないところであるから、被告佐藤の無断運転により本件事故が発生した時点において、被告井戸川は加害車に対する運行支配を喪失している。したがつて、被告佐藤に運行供用者責任はない。

(三)  同三ないし九項は否認。

三  被告会社

(一)  請求原因一項は認める。

(二)  同二項について、被告会社が加害車を下取り保有していて、これを被告井戸川に引渡したことは認め、その余の事実は不知。

被告会社は、八月一一日頃、加害車を被告井戸川が他に転売するため同被告に対しこれを売却し引渡したものである。仮りに右日時に被告会社と被告井戸川との間に加害車の売買が完了していないとしても、被告井戸川は転売の目的で加害車の引渡を受け、自己の責任と計算で転売先を物色し、転売先が決つた段階で確定的に被告会社から買受けることとなるものであり、その間自動車の使用、処分および管理の権限、義務は一切被告井戸川が有するものである。したがつていずれにしろ、被告会社が被告井戸川に加害車を引渡した時に、被告会社は加害車に対する運行支配および運行利益を失つている。そしてまた、被告井戸川は被告会社に無断で被告金沢に加害車を代車として貸与し、被告金沢は更にこれを被告佐藤に転貸したものであり、かつ被告会社と被告金沢、同佐藤との間に何らの人的支配従属関係はないから、被告会社は加害車に対する運行支配を全く失つており、また、その運行による利益も何ら享受していない。以上の理由により本件事故につき被告会社にまで運行供用者責任を負わせることは到底不可能である。

(三)  同三ないし九項中、秀夫の生活費が五〇パーセントであること、稼働可能年数が二八年であること、原告らがその主張のとおりの割合で秀夫の損害賠償請求権を相続したこと、損害填補済額が五五八万円であること、原告らと原告ら代理人との報酬契約の内容がその主張のとおりであることを認める、秀夫の年間所得額、慰藉料算定の事情は不知、その余の事実は否認。

第五証拠〔略〕

理由

一  (本件事故の発生)

〔証拠略〕によると請求原因第一項の事実が認められる。(ただし被告佐藤、同金沢との間では被告佐藤が大型車両を追越すため被害車に激突した点を除くその余の事実、被告井戸川との間では秀夫が死亡した事実、被告会社との間では全事実につきそれぞれ争いがない。)

二  (責任原因)

(一)  被告佐藤の責任

〔証拠略〕によると、被告佐藤は前記日時場所において無免許で普通乗用車(加害車)を運転し、時速約七〇キロメートルで先行車に追随中、先行車を追越そうとしたのであるが、約八〇メートル前方に対向車(被害車)が進行してきていたのであるから、このような場合、道路中央線を越えて追越しをすることは対向車と衝突する危険があるから追越しをしてはならないにもかかわらず、運転技倆未熟のため対向車と衝突する危険に気づかず、時速八〇キロメートルに加速して道路中央線を越えて追越しにかかつたため、加害車を対向車に衝突させ、対向車を運転中の秀夫に対し右肋骨々折兼気胸等の傷害を負わせた結果、同日午後一一時三五分頃同人を気胸により死亡させたことが認められるから、被告佐藤には民法七〇九条の不法行為責任がある。(被告佐藤、同金沢との間では、被告佐藤に不法行為責任があることは争いがない。)

(二)  被告金沢、同井戸川、被告会社の責任

(1)  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。(右認定に反する証人川合朝四郎、同佐久間清の各証言の一部は前掲各証拠に照らして信用できない。)

(イ) 被告会社は、自動車(新車および中古車)の販売を業とする会社であり、被告井戸川は、中古自動車の販売、修理業を行つている者である。

(ロ) 被告会社は、昭和四五年五月頃訴外末永勇幸に対し加害車を代金は分割支払で販売したが、同人が代金の支払を遅滞したため、同年七月末頃加害車を引取り、所有保管していた。

(ハ) 井戸川チエ子(同女は被告井戸川の妻であり、被告井戸川の前記業務につき代理権を有する者である。)は訴外原二郎からハードトツプの車があつたら買いたいから見せてくれと言われ、同年八月一二日頃被告会社原町営業所に赴き、同営業所長佐久間清から加害車を借り受け、これを運転して右原方に行き、同人に加害車を見せたが、同人の気に入らなかつたため、加害車を被告会社に返還すべく、一先ず被告井戸川方に持ち返つた。

(ニ) 被告金沢は、同月一三日被告井戸川方にかねて修理を依頼してあつた軽四輪自動車を引取りに行つたところ、まだ修理がすんでいなかつたので、お盆の間二、三日墓参りなどに使用するため代りの車の借用方を申込んだ。被告井戸川は加害車を被告金沢に売却しようと考え、その購入を勧め、その試乗をも兼ねて、加害車を同被告に貸与した。

(ホ) 同月一六日、被告金沢方に友人の訴外加勢孝運転の自動車で同人と同じく友人の被告佐藤が来て浪江町に遊びに行くこととなり、被告金沢は被告井戸川から借用中の加害車を運転して出かけようとしたところ、被告佐藤が運転したいと言うので同被告にその運転をゆだね、同車に同乗して出発し、途中から右加勢も加害車に同乗し、浪江町で更に顔見知りの訴外愛沢、神保の両名が同乗し、引き続き被告佐藤の運転で大熊町のドライブインに食事に行くべく進行中、前記のように本件事故を惹起した。

(ヘ) 従来、被告井戸川に対し、被告会社で販売する自動車の購入を希望する客があつた場合、同被告は被告会社に行つて客の希望条件にそう自動車を借り受けるとともにその自動車の仕切値(被告会社の販売価格)を聞き、自動車を客の許に持参し、右仕切値に被告井戸川の販売利益、修理の必要があれば修理費を加えた価格で購入方を勧誘し、客との間で売買が成立すれば、その段階で被告会社から買受けて転売するのであり、客との間に売買が成立しなければ、通常短期間保管して他の販売先を物色するが、売却できないときは、被告会社に返還し、場合により(将来販売できる見込がある場合)自己が購入していた。

(被告佐藤、同金沢との間では、被告金沢が本件事故当時加害車を被告井戸川から借用中であつたこと、被告井戸川との間では同被告が被告会社から加害車の引渡を受けて保管中これを被告金沢に貸与したこと、被告会社との間では被告会社が加害車を下取りして保管していたこと、これを被告井戸川に引渡したことについてそれぞれ争いがない。)

(2)  被告会社の責任

右認定事実によると、被告会社は被告井戸川に加害車を売却してこれを引渡したものではなく、被告井戸川が他に販売するために一時貸したものであつて、販売できないときは(同被告において購入しない限り)返還が予定されていたものであり、そしてまた、被告井戸川が加害車を客に販売することができて初めて被告会社もまた被告井戸川に加害車を売却できるのであるから、被告井戸川の加害車の販売は被告井戸川にとつて利益になると同時に被告会社にとつても利益になることであり、被告井戸川が販売のために自ら加害車を運行し、あるいは客に試乗のために一時貸与させることも被告会社として当然に予想し容認していることである。したがつて、(イ)被告会社は加害車を被告井戸川に引渡したことにより加害車に対する運行支配を失うものではなく、被告井戸川の販売のためにする加害車の運行により利益を亭受しているものであるというべきである。(ロ)また、被告井戸川から被告金沢に対する加害車の貸与も前記認定のとおり修理中の被告金沢の自動車の代車として貸与されたものであると同時に、加害車の販売のための試乗の目的もあつたのであり、かつ右貸与は二、三日後に返還が予定された極めて短期間のものであつたから、右貸与により被告会社が加害車に対する運行支配および運行利益を失つたものということはできない。(ハ)そして、本件事故は被告佐藤の運転中に生じたものであるが、前記認定事実によれば、被告佐藤の運転は被告金沢の運転と同視することができる状況のもとになされているのである。そうすると、被告会社は本件事故当時、加害車の所有者として、加害車に対する運行支配および運行利益を有していたものということができ、自賠法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者に当たるものと認めるのが相当であるから、同条による責任を免れない。

(3)  被告井戸川の責任

前記認定事実によれば、被告井戸川は、被告会社から加害車の引渡しを受け、以後加害車の運行につき、いわゆる運行供用者としての地位を取得したものであり、前記(2)の(ロ)(ハ)に述べた理由により、被告金沢に加害車を貸与したことによりまた、被告金沢が被告佐藤に加害車を運転させたことにより被告井戸川もまた加害車に対する運行支配および運行利益を失つたものということはできず、本件事故当時、被告会社と競合して加害車に対する運行支配および運行利益を有していたものというべきであり、被告井戸川もまた自賠法三条の運行供用者に当るから、同条の責任を負うべきである。

(4)  被告金沢の責任

前記認定事実によれば、被告金沢は被告井戸川から加害車を借受け、以後加害車の運行につき、いわゆる運行供用者としての地位を取得したものであり、前記認定した状況のもとに被告佐藤に運転させていたものであるから、本件事故当時加害車に対する運行支配および運行利益を有していたことは明らかであり、被告金沢もまた自賠法三条の運行供用者にあたるから、同条の責任を負うものである。

三  (損害)

(一)  秀夫の逸失利益

(1)  〔証拠略〕によると、秀夫は死亡当時、相馬丸三製紙株式会社に勤務し、給与は月額四万一、二三六円(基本給三万五、四二〇円、手当五、八一六円)を得ており、賞与は年額一七万七、一〇〇円(基本給の五ケ月分)が見込まれていたから、同人の死亡当時の年間収入は合計六七万一、九三二円であると認めることができる。

(2)  原告らは、第一次請求において、秀夫が定年まで二八年間毎年、基本給に対し一〇パーセントの昇給があることを前提として得べかりし利益を請求する。〔証拠略〕によると、右会社の従業員の平均昇給率は基本給に対し前年比、昭和四三年は一三パーセント、昭和四四年は一八パーセント、昭和四五年は二三パーセントであることが認められるけれども、右昇給率はベースアツプ分を含むものであり、かつ同社の従業員の平均にすぎないから、これをもつて秀夫が定年まで二八年間毎年基本給に対し一〇パーセントの昇給があるものと認めることは困難であり、他に確実な基準についての主張立証がない以上秀夫の得べかりし利益は前記死亡当時の収入額によつて算出するほかはない。

(第一次請求は右主張が認容されることを前提とするものであるところ、右の理由によりこれを認めることができないから、以下予備的請求について判断する。)

(3)  〔証拠略〕によると、秀夫は康子と夫婦二人暮しで子供がないことが認められ、これに前記秀夫の死亡当時の年令、職業、収入等を勘案すると、同人の生活費として収入額の四〇パーセントを控除するのが相当であると認められるから、同人の年間逸失利益は四〇万三、一五九円となる。

(4)  〔証拠略〕によると、秀夫は昭和一七年一〇月一七日生れで死亡当時二七年一〇月であつたこと、同社の定年は満五五年であるが、普通は満六〇年ぐらいまでは勤務できること、したがつて、秀夫は将来少くとも二八年間は在職可能であり(被告会社との間において稼働可能年数が二八年であることは争いがない)、その間少くとも年間前記収益を得ることができると認められるから、二八年間の逸失利益の累積総額は一一二八万八、四五二円となり、ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除すると、その死亡当時の現価は六九四万二、三九七円となる。(403,159円×17.22=6,942,397円)

(5)  次に、〔証拠略〕によると、秀夫は昭和四四年八月頃から右会社に勤務したことが認められ、同人の定年時は昭和七二年一〇月一六日であるから、定年まで二八年二ケ月間在職することになる。ところで、〔証拠略〕によれば、二八年間勤続後五五年定年退職時の退職金は基本給の三五ケ月分であることが認められるから、秀夫の定年時における退職金は一二三万九、七〇〇円(前記基本給三万五、四二〇円の三五倍)であり、年五分の中間利息を控除すると、その死亡当時の現価は五二万五、六三二円となる。

(1,239,700円×0.424=525,632円)

(二)  精神的損害

〔証拠略〕によれば、康子は昭和一九年二月五日生れで昭和四三年一二月一一日秀夫と婚姻し、二人の間に子供はなかつたこと、秀夫は原告亀之助、同フヂエの五男であることが認められ、そのほか本件事故は被告佐藤の一方的かつ重大な過失に基因するものであつて、秀夫には何ら過失がないこと、原告亀之助、同フヂエの年令など本件に現われた諸般の事情を考慮すると、慰藉料の額は原告康子につき三〇〇万円、原告亀之助、同フヂエにつき各五〇万円をもつて相当と認める。

四  (権利の承継)

〔証拠略〕によれば、秀夫の損害賠償請求権を原告康子が二分の一、原告亀之助、同フヂエが各四分の一の割合で相続したことが認められる。(被告会社との間では右事実は争いがない)

五  (過失相殺)

被告佐藤、同金沢は本件事故につき、秀夫にも前方不注視の過失があるとして過失相殺を主張するけれども、秀夫に過失があつたことを認めるに足りる証拠はない。

六  (損益相殺)

原告らが被告らから自賠法による保険金を含め五五八万円を受領し、前記秀夫の逸失利益の損害賠償債務に充当したことは原告らの自認するところである。被告佐藤はそのほかに金五八万円を支払つた旨主張するけれども、同被告が右五五八万円のほかに五八万円を支払つたことを認めるに足りる証拠はない。

七  (弁護士費用を除く原告らの請求の認容額)

そうすると、被告らに対し、原告康子は秀夫の逸失利益の相続分九四万四、〇一四円(前記三の(一)の逸失利益計七四六万八、〇二九円から前記六の五五八万円を控除した残額の二分の一)と同原告固有の慰藉料三〇〇万円との合計三九四万四、〇一四円、原告亀之助、同フヂエは秀夫の逸失利益の相続分各四七万二、〇〇七円(別記三の(一)の逸失利益計七四六万八、〇二九円から前記六の五五八万円を控除した残額の四分の一)と同原告ら固有の慰藉料各五〇万円との合計各九七万二、〇〇七円および右各金員につき秀夫死亡の日の翌日である昭和四五年八月一七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。(しかし、秀夫の逸失利益の相続分については、原告康子は九三万九〇五六円、原告亀之助、同フヂエは各四六万九、五二八円の支払を求めているにすぎないので、被告らは本訴において右請求の範囲内で支払義務がある。)

八  (弁護士費用)

〔証拠略〕によれば、原告らは原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、着手金として五万円を支払い、訴訟終了の際謝金として判決認容額の七パーセントを支払うことを約したことが認められるが(被告会社との間では報酬契約の内容につき争いがない)、本件事案の内容、審理の経過および認容額に照らすと、本件弁護士費用は原告康子につき二五万円、原告亀之助、同フヂエにつき各五万円が相当である。なお、右着手金五万円に対する原告らの負担割合を認めるに足りる証拠がなく、謝金については、本件訴訟終了の際支払うことになつていることが甲第八号証により認められるので、弁護士費用に対する遅延損害金の請求は認容することができない。

九  (結論)

以上の次第で、原告らの第一次請求は理由がないので棄却することとし、予備的請求については、被告らは連帯して、原告康子に対し四一八万九、〇五六円(秀夫の逸失利益の相続分九三万九、〇五六円と同原告固有の慰藉料三〇〇万円と弁護士費用二五万円との合計額)および内金三九三万九、〇五六円に対する、原告亀之助、同フヂエに対し各金一〇一万九、五二八円(秀夫の逸失利益の相続分各四六万九、五二八円と同原告ら固有の慰藉料各五〇万円と弁護士費用各五万円との合計額)および内金九六万九、五二八円に対する、いずれも昭和四五年八月一七日からそれぞれ支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、原告らの予備的請求は、右の範囲において理由があり、その余は失当である。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦伊佐雄)

逸失利益(給与)現価計算表

<省略>

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